井植歳男のセールストーク

昔の経済ドキュメンタリーからはヒントが得られるので、好んで見ています。

 

今回取り上げるのはプロジェクトX三洋電機が洗濯機市場を開拓した際の話です。

 

開発秘話というのも非常に重要なのですが、最も重要な場面はそれ以外にありました。完成した洗濯機を売り始めた時の話です。

 

今まで見たこともない洗濯機の登場に、顧客の反応は井植らの予想以上に鈍く、売上は伸び悩みました。

 

新しい製品を売る際には顧客にその製品を評価する基準がないため、既存製品を売る以上の営業力が問われます。

 

井植が営業マン達に示したトークスクリプトは、次のようなものでした。

 

「主婦が一回の洗濯で使う労力を金額に換算すると25円かかる。洗濯機は1台270円であるため、13回で元が取れる」

 

この逸話を聞いて、営業の基本はいつも変わらないと思いました。そして、1つの会社においてこういう営業トークができる人は決して珍しくはなく、少し腕が立つくらいのレベルだと思います。

 

この営業を組織的に、社長のもとで徹底的にやることが難しいのです。井植氏が手本を示して、その通りやってみよう、と思わせるには、

部下との信頼関係に加え、わかりやすい説明が必要です。

 

その凄さは、技術者が「自分は井植さんのもとで働いて、良い技術者には、売ることもわかってないとなれないと感じた」と発言したことからも伺えました。

 

今や会社としては存在しない三洋電機ですが、井植歳男という人物は歴史に名を残したと言えるでしょう。

 

 

 

 

現象ドリブン思考と理論ドリブン思考

入山章栄著「世界標準の経営理論」という本を読んでいます。

 

この本、820ページもあって読み通すのが大変なのですが、私のような実務家にも多くの示唆を与えてくれる傑作です。ビジネスマンが理解できる水準まで内容のレベルを調整して書いてくれているのがよくわかります。

 

序章に示されている「現象ドリブン思考」と「理論ドリブン思考」という考え方については、これまで経営学の勉強をしてきた中でのモヤモヤが晴れた気がしましたので、ここで取り上げます。

 

「現象ドリブン思考」とは、「現実のビジネス事象に興味があって、すでに出来上がった理論をそこに応用する」思考のことです。ビジネススクールの教科書やカリキュラムはこの思考でできています。

 

「理論ドリブン思考」とは、主要な経営理論(著者いわく30コほど)を思考の軸にして、ビジネス現象の本質を切り取る思考のことです。

 

この説明により理解できたのが、「現象ドリブン思考」では、一つの事象を色々な経営理論で説明できてしまう、ことによる「思考の浅さ」が問題となってしまうということです。

 

中小企業診断士を取れる程度の知的水準があるビジネスマンが経営学を自分の血肉として使えないのも、物事の本質を掴めていないからではないかと強く感じました。

 

現象に着目するのは重要ながら、経営学が蓄積し、生き残ってきた理論には、物事の本質を切り取る力があるそうです。

 

この本を自分の血肉にすることで、今までと異なる世界が見えるのではないか。週末の外出も制限される中での課題図書として取り組んでいます。

 

 

 

カネを何だと思っているのか

コロナウイルス感染症関連で、中小企業の資金繰りが保たないという話が取り上げられます。

 

極めて重要な話なのですが、申込先の企業から、「借りすぎて業績が回復した際に余ってしまったら返してもよいか」という問合せを受けます。

 

金融機関からカネを引っ張る時は、中途半端ではいけません。コロナウイルスの影響がいつ終息するかわからない中で、過不足なく借りようというのは虫が良すぎると思います。

 

経営者に手厚い支援をするか、自然淘汰に任せるかは、思想的な話なのでどちらに与するものでもありませんが、使えるものをすべて使って会社を存続させることは、自分についてきてくれている従業員やカネを貸してくれた人に対する責任だとは思います。

 

私は一人の融資マンとして、できるだけ全ての会社に貸すことを考えます。登場人物の全てが必死になることで生まれる力は、危機を脱するに余りあるのではないでしょうか。

 

 

帳尻合わせからの卒業

サエグサと申します。

 

金融機関で融資担当者をしています。平成20年に新卒で入り12年が経とうとしています。会社ではベテランと呼ばれる域に入ってきたところでしょうか。

 

時期については流動的ですが、スカウト的な話を貰ったこともあり、会社を辞める決意をしたため、この度ブログの形で記録を残してみることにしました。

 

現在の勤務先では、中堅中小企業の経営者と一対一で話が出来、リスクの高い融資を組む裁量も与えられているため、天職と思った時期もありました。

 

会社にもそれなりに評価され、社費留学等の経験も積ませてもらえました。ところが、この一年くらいから、実態論よりも形式論、書面上の帳尻合わせばかりが求められる流れが強くなり、自分にとっては不本意な頭の使い方をする場面が増えてきました。

 

プロ経営者を志す自分が仕事に求める要素は、経営能力を高められることであり、今の会社では初めて部下を持つ立場になるまでにあと10年近くかかることにも苛立ちを覚えていました。

 

そんな中で、昨年、親しい人が相次いで50歳前後で亡くなったことが退職を決意する決め手になりました。

 

当面はスカウトをもらったコンサルタンティングファームに属して、事業に手を入れる力を高めたいと考えています。

 

現下の経済状況を見るに、スカウトの話もどうなるかは分かりませんが、これまでの仕事で得たノウハウや事例を体系化しつつ、よい仕事に就きたいと思います。

 

このブログは今の仕事の、最後の一年間を悔いなく過ごすため、考えを深めるためのものにしたいと思います。

 

ちなみにサエグサという名前は「V字回復の経営」シリーズで有名な、三枝匡氏から拝借したものです。

 

三枝氏の掲げる、本当の意味での経営人材、プロ経営者に挑戦したいとの決意のあらわれです。

 

自分の人生を生きられるように、毎日を大事に過ごしたいと思います。